幻の名司会者

以前、Web上で発表した文章です。店のPRではなく、情報公開の一環です。
小学校5年生のころ、学級会の司会者に選ばれた。
中学以降、そういう目立つ立場に選ばれたことがないので、このことは、人生最後の栄光といってもよい。
選ばれたものの、私は、話すことが苦手、聞くことも苦手、という人間である。
司会者として教室のまん前にすわっても、何もしゃべれない。
助け舟が現れた。
先生である。
担任の先生が、次にどうしゃべったらよいか、つねに小声で指示を出してくれるのである。
私はそのとおりにしゃべった。
名司会だった。
他の子らにとって、その名司会ぶりが頭に焼き付いていたのか、6年生になったときも、私は再度司会者に選ばれた。
担任の先生は違う先生になっていた。
助け舟は最後まで現れなかった。
私は、何をしゃべったらよいのかわからず、いつも途方にくれていた。
半べそをかいて、ただただ時間が過ぎるのを待っていた。
あれは、拷問にも等しい時間だった。
5年生のころの名司会ぶりと、6年生になってからの司会ぶりの落差が激しかったので、級友たちの反応は冷酷だった。
あのときの経験があまりにもつらく、人前でしゃべるときになると、いまでも、体の底からふるえがわきおこってくる。