美少女の「いやだあ」の一撃

以前、Web上で発表した文章です。店のPRではなく、情報公開の一環です。
大学生のころの話である。
二十五年くらい前の話ということになる。
夏休み、体調を崩して医者に行った。
その医者は、小さな医院で中年の女の医者が経営していた。
看護婦も薬剤師もだれもいない。たったひとりで小さな医院を経営していたのだった。
何日か通って、もう、ほとんどよくなったころだった。
田舎の小さい医院だったから、その日も、患者は私だけだった。
待合い室には他にだれもいなかった。
外ではセミがうるさかった。
診察を終えて待合い室にいると、女医さんが出てきて、こういうのだった。
「これから、うちの娘とプールに行って来てくれないか」
私はびっくりした。
「うちの娘、高校3年生なのだけれど、受験でストレスがたまっているから、気分転換にプールにでも連れていってくれない?」
と、いうのである。
「急に言われても・・・。ぼく、泳げませんよ」
思いもかけない話に、当惑しきって、適当に答えておいた。
あれは、本心だったのだろうか?
「泳ぐなくてもいいのよぉ。とにかく、プールにでもつれていって遊んでくれれば」
大声の女医。どういう意味なのだろうか。
女医さんは、何をたくらんでいるのだろうか。まったくわからなかった。
「うちの娘を見たら行きたいって言うわよ」
んな、そうだろうか。あてになるもんか。
「これが、うちの娘」
女医さんが言うと、戸の影に隠れていたと思われる女の子がひょこっと顔を出した。
するりとした、背の高い、色白の、美少女だった。すっごい、いい。
鮮明なまぶしさを感じた。
ところが、女の子は、私を一瞬見るなり、やだあ、と小さく言って引っ込んでしまった。
女医さんは、多少あわてたようだった。
戸の向こうで娘とごちょごちょ話をはじめた。
どうやら、母親が娘を説得しているのに、娘はいやがっているようなのだ。
そんなにいやがるようなことを強制してうれしいのか、この母親は!
ちょっとさみしくもあるが、私はキツネにつままれたような感じで、その場に立ち尽くしていた。
天国から地獄につきおとされたような感じがしたような気がしたが、違うだろうか?
一体、こんなとき、どんな表情をしたらいいのかさっぱり分からなかった。
自分に良いことがあったのか、それとも絶望的なことがあったのか何も分からなかった。
とにかく、それから女の子は姿を現さなかった、ということは確かだ。
ぼくは、やりきれない思いがした。