以前、雑誌に連載していた文章です。店のPRではなく、情報公開の一環です 「諸君!
お疲れのところ申しわけないが、これで終わったと思ってはいけない。
今年度のH大祭が成功裏に終わった今日から、来年度のH大祭に向けてスタートしなければならない。
それが我々に課された責務と言うものだ」
学園祭実行委員長の吉田秀一は、平成9年度H大学学園祭の打ち上げの席上で力強くぶちあげた。
彼のドスの聴いた声は、まるでこんなときのためにあるかのように効果的に会場の隅々まで響きわたった。
「今回うまくいった点は、次回さらに磨きをかけ、うまくいかなかった点は徹底して改善する。
この積み重ねが日本最強の学園祭を形成するはずだ。
我々は休む事なく努力しなければならない」
吉田は、少々アルコールを口にしただけなのに、気分が高揚しているためなのだろう、完全にデキあがっている。
実行委員長という肩書をもつ自分に酔いしれているのだ。
「さっそく言わせてもらうが、オレにはいくつかのアイデアがある。
インターネット時代に最適なアイデアだ。
このアイデアは、H大の潜在的パワーを示すとともに、次世代のH大祭への記念すべき里程標となるだろう」
客席がざわついた。
今日、終わったばかりなのに次回のアイデアを打ち出す派手なポーズとバイタリティーに、やや疲れぎみの実行委員たちも辟易しているのだ。
「オレのアイデアを聞きたいか?青木?」
吉田は実行副委員長の青木に話題を振った。
青木は次期委員長の最有力候補と目されており、自身も意欲がある。
しかし、吉田が連投に色気を示すとなると、過去の実績から言って、青木委員長実現の可能性はなくなる。
青木は困惑した。
吉田のアイデアが優れていれば、即、吉田の連投が決定的になってしまう。
青木は賭けてみることにした。
吉田のポカを期待したのである。
彼は吉田の問いにゆっくりとうなづいた。
「そうか、そうか、そうだろう。みんなもそうだよな。
よし、オレも男だ!みんなにそこまで期待されているとなると、引き下がるわけにもいかん。
他言無用のアイデアだが、本邦初公開といこうか」
そこまで言うと、吉田は大きく息を吸い込んで、つばを飲み込んだ。
「ズバリ言おう。マッキントッシュを起用した企画だ」
傍聴席(?)がざわついた。
「題してマッキントッシュ我慢大会だ」
その瞬間、傍聴席の空気がすべて入れ替わったかのような違和感が会場をおおった。
「1年後のH大祭当日がマッキントッシュ我慢大会の決勝だ。
で、予選は明日から1年間の長きにわたって行われる」
そこまで言うと、吉田は鼻をすすった。
吉田の唯一の持病が、アレルギー性鼻炎なのだ。
彼の愛用するマッキントッシュのまわりは常に使用済みティッシュペーパーがうず高く積み上げられている。
「ゲームのルールだが、参加者はマッキントッシュのパワーユーザーだ。
で、会場に1年間閉じ込める。
会場は同窓会会館がよかろう。
あそこなら、衣食ともに不便はない。
マッキントッシュ一式は参加者に持参してもらう。
会場で1年間生活してもらうわけだが、OSをはじめとして、ソフトやハードのバージョンアップ情報をがんがん与える。
マックの雑誌もすべて読んでもらう。
しかも、参加者には100万円の小遣いが渡される。
もし、最後まで勝ち抜けば100万円はそのまま参加者のふところに入るが、途中で敗退した場合は100万円はまきあげることになる。
100万円は生活費に使ってもいいが、もちろん、マッキントッシュに投資してもかまわない」
ここで吉田はひとつ深呼吸した。
続いて会場を大きく眺め回し、自分の方を凝視している聴衆の表情に満足したかのような笑みを浮かべた。
実は、聴衆は表情をひきつらせていたのである。
吉田は不適な笑みを浮かべると吐き捨てるように言った。
「ここで諸君に注意しておこう。
この企画はマッキントッシュを揶揄するための企画ではない。
その証拠に、ウインドウズ95に寝返った者にはペナルティとして200万円を課す。
隠れ95ユーザーには踏み絵や拷問もあるかもしれん。
覚悟して欲しい」
そこまで言ったときだった。傍聴席で、貧血を起こした女子大生がドっと倒れる音が会場に響きわたった。
まわりにいた男子学生が彼女を助け起こし、椅子にすわらせた。
女子大生は左手をひたいにあて、右手で腹部を押さえ、苦悶の表情でどさりと腰掛けた。
吉田は舌打ちをならし、続けた。
「1年の途中でバージョンアップや新規購入の誘惑に負けた会員は、敗者となる。
それに対し、1年間、誘惑に打ち勝ったユーザー。すなわち、彼または彼女こそ、このゲームの偉大なる勝者となるわけだ。
優勝者は真に意志の強い者、真に勇気のある者として、かのダビデ像よろしく、H大祭記念広場に彼の彫像を建立し、末代までのモニュメントとする」
力をこめて言い切ると、吉田は不覚にも軽いめまいを感じた。
さすがに、疲れたようだ。
そばで聞いていた青木だけが勝ち誇ったような笑みを浮かべ、他の実行委員たちはますます表情をひきつらせるばかりだった。
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