パソコン同好会シゴキ事件てんまつ

以前、雑誌に連載していた文章です。店のPRではなく、情報公開の一環です
 こんにちは。パソコン事件記者です。
今回は、某高校で起こったパソコン同好会シゴキ事件のてんまつについて報告させていただきます。
運動部ならぬ文化部で起こった、シゴキ事件。めずらしきことである。
 春の日のさわやかな午後のできごとだった。
少年たちは高校入学後の夢を抱いたまま、廊下を歩いていた。
 「松井(仮名)、おまえ、どの部にはいるか決めたか?」
 「そうだなー、マック持ってるし、パソコン同好会でもどうかなとは思ってる」
 少年たちが入学した*高校は新入生は必ずどこかの部または同好会に入部する事になっている。
イチロー(仮名)と松井は、中学からの友達だ。
できれば、同じ部に入りたいと、彼らは、思っていた。
 「でもさー、ここのパソコン同好会ってシゴキで有名だって、中学校時代の先輩が言ってたぞ」
「シゴキねえ。シゴキったって、文化部だぞ。
それに、同好会だし。たかが知れてるって。
ほら、部室をちょっとのぞいてみようぜ」
 なぜか、仕組んであったかのように都合よく、パソコン同好会の部室がそこにあった。
 彼らが、部屋に入るなり、背は低いが、横幅は相当にある中年男がヅカヅカとそばに寄ってきた。
 「おう、ヨクキタナ。おまえたちの話は盗み聞きさせてもらった。
悪く思わんでくれ。
ほら、あれがビデオカメラで、このパソコンに取り込む仕掛けになっている。
廊下には隠しマイクが仕組んであって、音声はインターネットを通じて部室のサーバーに届くようになっている。
おっと、テクニカルタームのオンパレードしてしまった。
ま、おまえらには俺が何を言っているかちんぷんかんぷんだろうが、よかよか、そこにすわれ」
 少年たちが座ると、教室のはずれのほうで、部員がワっと叫んだ。ぼくたちはぎょっとして、声の方をむいた。
叫び声を聴いて、その声の発生源へと他の部員が駆け寄る。
 「こ、こいつ、よりにもよって、ボタンを押し間違えた!」
 「うわあああ。なんてことを!」
 部員たちはいちように恐怖にひきつった顔になっている。
 「なんだとお、ボタンを押し間違えただとお!きさまあ!」
 中年男は叫び声の発生もとまで歩み寄ると野太い声で叫んだ。
 「きさまあ、ボタンを押し間違えるようなヤツは、罰としてOSの再インストール100回だ」
 「監督、ゆ、許してください。それだけは、許して」
とめどなく涙を流す部員。
 「顧問に口答えをする気か、それじゃ、フロッピー版ソフトを50回インストールを追加だ」
どうやら、この男が顧問らしい。
 「ええっ!監督!あの51枚のフロッピーの、あの、ソフトを50回ですかあ。
1000本インストールよりはマシだけど、つらいっす」
 「なあんだ、清原(仮名)?きさま、俺がわざわざおまえの事を見込んで桜中学から引き抜いてやったのに恩をわすれたっていうのか?」
 「そんな、長島(仮名)先生」
 「先生ではなああーい。俺は監督だ。
監督と呼べ。
清原、おまえは、21インチディスプレイの運搬500メートルだ」
 「うわあ、許してください。腰痛が」
「それから、広沢、さっきからつったてばかりでどうする?
おまえは、4ギガハードディスクのフォーマット200回だ」
部員たちに監督と呼ばれる男は、こちらに、つかつかと歩み寄ると、低い声で言った。
かすかに、プンと、酒のニオイを感じた。
 「いいか、松井。おれたちは、今年のパソコン甲子園でのリーグ優勝を目指している。
いいな、おまえは本校の不動の3番だ。
あの清原が不動の4番だ。
がんばってくれ。
そういえば、例のソフトはいまだにバグっていて、不動だ。いまいましい」
男は、松井にマウスを渡すといった。
「新入部員は、マウスクリック2万回、キーの打鍵を5万回が練習メニューだ。
まず、スムーズなフォームで打てるようになること。
そのためには、手首の回転が重要だ。
いいな、そのためのマウスクリックだ。
攻撃は最大の防御だからな。
さあ、いわゆるメークドラマだぞ!」
 言っていることが意味不明だ。
 松井は、そのとき初めて室内を見渡した。室内の右奥の方には、血染めのキーボードやマウスがつみあげてあった。