以前、雑誌に連載していた文章です。店のPRではなく、情報公開の一環です 「社長,スーパー未来予想プログラムの開発,たった今、終了しました」ソフトウェア開発員のジェームズ田中は,そう言って笑った。
田中は入社して間もない若手開発員で,入社時から歩くバルーンヘルプとも呼ばれ,彼の未知のすご腕は社内のすみずみまで知られていなかった。彼は、社のサディスティックな方針によくこたえ、外出もせず、日夜開発に専念しているためか肌はぬけるように白い。笑うと花粉症でつまった鼻声がいたいたしい。他の若手社員と同様に、敬語のへたな青年だ。その田中が,開発コード「MANBAKEN」という未来予想プログラムの開発を完了したという。もちろん,Macintoshオンリー対応のソフトである。もっとも、Windowsには同種のコンセプトを持ったソフトは存在しないし、開発プロジェクトさえも存在していないはずだ。要するに、スクープソフトウェアなのだ。
「使い方は簡単です」
田中はこともなげに言い放つと、再度笑った。この男は、照れ屋なのだ。
「まず、予想したい事柄をキーボードからインプットします。たとえば、『セ・リーグの優勝チーム』、とか。自然言語に完全対応なので、『今年のセ・リーグ優勝チームはどこ?』などとしてもOKです。
次に、その事に関して、最近の結果を予想データとしてインプットします。このデータはなるべく新しいほうが的確な予想を得る事ができます。たとえば、セ・リーグの優勝チームを予想する場合は、昨年度の優勝チーム名を入れるか、または、今年度の現時点での首位チーム名を入れます。例として『ヤクルト』を入れておきましょう。準備はこれだけです。
準備が終わったら、【予想】ボタンをクリックします。すると、『セ・リーグの優勝チームの予想はヤクルトです』と表示されます。どうです?実にもっともらしい予想でしょう?予想らしい予想としての予想ができているわけです。
この予想プログラムの特長は、"入力すべきデータ量が極小である事"、"過去の事実に矛盾しない、思わずうなづくほどもっともらしい予想を瞬時に予想する事"の2点です。動作が軽い事も特長のひとつと言えますが」
私は驚いた。ざっと聞いたところ、もし彼の説明が事実であれば、現在のソフトウェア工学の限界を超越した作品ではないか。
まず、検証が必要だ。私は、このプログラムにいくつかの予想をさせてみることにした。
予想1:明日の天気
まず、明日の天気を予想させてみよう。予想したい事柄として『明日の天気』と入力し、最近の結果として、今日の天気を入力する。つまり『晴れ』と。おもむろに、【予想】ボタンをクリックすると、瞬時に予想が表示された。『明日の天気の予想は晴れ』であった。なるほど、実に、もっともらしい予想ではないか。気象庁の自信なさげな予報よりもよほど明快だ。私は窓の外の晴れわたった空をあおいで、思わずにやりと笑っていた。このぶんなら、明日は晴れに間違いない。
予想2:次回の将棋大会の優勝者
次に、町内の将棋大会の優勝者を予想させてみよう。予想したい事柄として『次回の将棋大会の優勝者』と入力し、最近の結果として前回の優勝者名を入力する。つまり『河田さん』と。そうしておいて、【予想】ボタンをクリックすると、またしても瞬時に予想が表示される。『次回の将棋大会の優勝者の予想は河田さん』である。おお!実にもっともらしい予想だ。前回優勝している河田さんなら、今回も優勝すると予想するのがもっとも妥当というものだ。私は、思わず何度も大きくうなづいていた。事情を知らない、遠くにいる社員が、ぎょっとしていた。
未来の予想という不確定きわまりない命題に対して、ここまでも的確な予想を下すとは。まさに、現代プログラム理論の勝利である。私は、このソフトの爆発的ヒットを確信した。もうしわけないが、一人勝ちである。
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