新米ライターの努力とは?

以前、雑誌に連載していた文章です。店のPRではなく、情報公開の一環です
 長島秀樹、某パソコン雑誌に連載を持つ、かけだしのライターである。彼の一日は遅めの起床で始まる。
「あー、もう11時か、今日も寝過ごしちまったぃ」
 彼は、昨夜入れたまま飲みかけになっているコーヒーをレンジで暖め、それをすすりながら、読者ハガキの整理にとりかかる。彼にとって、読者ハガキの整理は欠かせない日課だ。
 読者ハガキ。新米ライターにとって、これほど大切なものはない、というのが彼の持論である。実際、彼、長島秀樹の読者ハガキでのアンケートによる支持は抜群なのだ。もちろん、それには秘密があり、表には現れないが、血のにじむような努力の成果なのである。
 彼のやり方を紹介しよう。まず、読者はがきを束にする。そして、アンケートにある”今月号のおもしろかった記事をあげてください”の設問に”長島秀樹のパソコン三昧”とサインペンでていねいに記入する。束になっている読者ハガキは、実は、彼自身が購入してきた雑誌から切り取ったものを束にしたものだ。雑誌は発売日後の10日間にわたり、毎日25冊、近所の書店を回って買い集めてくる。くどいが、もちろん、彼が連載を書いている雑誌をだ。
 読者ハガキの整理が終わったら、さっそく投函だ。250枚もの読者ハガキをかかえて、近所の郵便局まで歩く。これは散歩も兼ねている仕事なのだ、なお、彼は同じ住所のペンネームを何千と持っているのでハガキを受け取った編集部に怪しまれることはない。
 読者ハガキの整理。こんな目立たない地味な努力に、彼の連載記事の人気1位の秘密があったのだ。それどころか、完璧をめざす彼は、自分から編集部に出向いて行って、ハガキの束から自分の記事をほめるハガキをわざとらしくつまみあげて読み上げることさえも行っている。
 さて、12時になると、昼食兼朝食をとる。食後はささやかな昼寝をする。昼寝はライターにとって欠かせない日課であり、ネタは寝ている間に育つというのが彼の持論なのだ。したがって昼寝中は仕事を忘れることにしている。
 昼食と昼寝が終わると、今度は読者や関連企業、編集部への電話だ。こまめに電話する事も新米ライターには欠かせない日課だ。「あ、坂巻?ぼくの記事、読んでもらえた?で、読者ハガキに”おもしろかった”って書いてくれた?あ、そう、持つべきものは親友だねぇ、ありがとう」
 次に電話する。
「あ、先生ですか?その後ですか?もー、順調にやってます。それより、今月号のぼくの記事、読んでもらえました?あ、そうですか。やっぱり、先生ですね。ありがとうございます。で、読者ハガキに”おもしろかった”って書いていただけましたか?そうですかあ、ありがとうございますう」
 さらに次に電話する。
「もしもし、じいちゃん?今月号の記事、読んでくれた?うん、けっこう大変。で、さあ、毎月悪いけどさあ、親戚一同に伝えて欲しいんだけど。読者ハガキに”おもしろかった”って書いて欲しいってさあ。じゃ、頼むね!」
 こういう地道な努力ができるところに、彼の連載の人気1位の秘密があったのだ。彼は、小学校に入学したばかりのいとこの政夫君にもハガキを書いてもらっている。
 夕方からは取材だ。担当の編集者が参加すると言っていた新製品発表会に出向く。で、会場の入り口を入ったら、身を隠すようにして壁の影にたつ。1時間も待っただろうか。彼の担当の編集者がやって来た。
「あ、奇遇ですねえ、こんなところで会うなんて。うれしいなあ」 タイミング良く飛び出し、わざとらしく自分の存在を相手に印象づける。こうやって、自分の勤勉さを編集者に評価してもらい、自分のことをおぼえてもらう。
 こんな地味な努力に、彼の連載の人気1位の秘密があったのだ。
 夜は、パソコン通信とインターネットだ。パソコン通信もインターネットも新米ライターにはかかせない武器だ。これを使いこなすかどうかでライターの将来は大きく変わる。マッキントッシュを使うのもこの時間に集中する。
 彼のアクセスはすさまじい。アクセスするやいなや、”今月号の長島秀樹の連載、さいこうでしたよねー”という掲示板書き込み、チャットでの発言、メーリングリストやニュースグループへの投稿。これを何時間にもわたって延々と行う。彼は、IDを数十持っているのだ。
 こんな地味な努力ができるところに、彼の連載の人気1位の秘密があったのだ。
 彼の1日は次の日の早朝に満足感とともに終わる。『あー、今日もよく働いた』労働の疲労感が快さに変わる頃、彼は万年床に横たわって深い寝息をたてるのであった。
 長島秀樹、某パソコン雑誌に連載を持つ、かけだしのライターである。彼の書く原稿はどれも読者の圧倒的な支持を得ているが、編集者の間では、なぜか、毎月の締め切りを守らないことで有名であった。