パソコンカラオケパーティー

以前、雑誌に連載していた文章です。店のPRではなく、情報公開の一環です
「パソコンでカラオケ?なんか盛り上がらないわよねえ」
陽子は明らかに不満の表情を見せた.
「そうは言ってもさあ,部の予算も足りないし」
青山和男はオーロラ大学ソフトテニス部の部長をつとめる4年生である.
「予算が足りなきゃ参加費をとればいいじゃん」
陽子はしつこく食い下がった.
「言っとくけど金はないぞ.オレもパワーブックのG3買っちゃったからなあ」
「チームワークを考えると,強いことも言えないんじゃない.部長の案に従いましょ」
別の部員である.
「パソコンカラオケでお茶をにごそうってわけか」
まわりの連中は気ままである.
「とにかく,部長の下宿へ行こう.話はそれからってことで」
青山の下宿は,近くのアパートの一室だった.
「え?パソコンカラオケってこれ?せこいのねえ」
陽子は青山のパワーブックを見るやいなや失望の声をあげた.そりゃ,カラオケボックスの業務用の機械よりはぐっと小さい.無理もない話である.
「せこいっておまえ,失礼だぞ.頭が高い.G3だぜ.世界最高速の」
愛機をバカにされてはたまらない.
「だからやっぱりカラオケボックスの方がいいって言ったのよ」
「まあまあ,とりあえず,はじめようよ」
会計係をつとめる小林である.
「気が進まないけどさ,ま,いいか.じゃ,パフィーあたりで一発行こうかな」
「よし,じゃ,スイッチオン,起動してと・・・」
起動音が部屋に響き,ハードディスクがかすかな回転音をたてる.
「えーっ,なによ,これ.待たせるヤツ.にぶいわあ,世界最高速のはずなのに?」
「言葉悪いよなあ.Windowsよりは俊敏だぜ」
青山は不機嫌そうだ.
「とにかく早くしてよ.私,門限9時なのよ」
何かと難癖をつける陽子である.
「インターネットに接続してと,マウスをクリック,ほいほいほいと.俊敏だねえ」
「青山君,何やってるのよ.カラオケよ!」
「だからさあ,インターネットカラオケなの」
「めんどっくさぁ.やってらんない」
「ネットスケープ起動して」
「のろいっ」
「カラオケプレーヤを起動してと」
「わーん,待てないぃ」
がまんできない女である
「5,6分くらい待てねえのかよ」
「普通,とっくに飲み物とか注文を取りに来てる頃よね.おーい.あたし,のどかわいたぁ」
「セルフなんだよ,セルフ」
小林がうんざりした口調で応じた.
「もう,いやあ」
「よし,パフィー,選曲したよ」
データのダウンロードが始まった.画面にウィンドウが開き,棒グラフが右に伸びていく.
「はじまらない・・・」
「だから,ちょっとくらい待てってば」
そうこうするうちに音楽が鳴り始めた.
「ちょっと,なによ,これ.せこーい.ちっとも迫力がない」
「だからぁ,内臓スピーカーじゃこれが限度だっての」
「マイクはどこにあるのよ.まさか,マイクも内臓?」
「マイクはないぞう」
小林があいかわらずうんざりした口調でシャレを飛ばず.
「マイクなくたって歌えるだろぅが」
「歌えないわよ.乗れないし」
「ぜいたくな女だよなあ,つきあってられないね」
「だれも頼んでつきあってくれなんて言ってないわよ.いいわ,がまんして歌うから」
陽子の歌声が室内に響いた.
「おいおい,ひとのパワーブックの画面にツバを飛ばすのはやめてくれよ.きったねえなあ」
「歌えば飛ぶわよ」
「TFTだぜ.大切にしろよ」
「わけわかんないこと言わないでよ.もぉ.やってらんない.カラオケボックスならさ,ツバ飛ばし放題なのにさ」
おいおい,そりゃないぞ.
「あー,なによぉ,手がつっちゃう.リモコンが欲しい!」
パワーブックを操作しようとして陽子は悲鳴をあげた.
「世話がやけるよなあ.こいつ,それでも21世紀を生きる女かよ」
遠慮のない罵詈雑言の飛びかう中,ソフトテニス部の新人戦反省カラオケ大会は深夜にまで及んだ.