追及!パソコンライターたちの午後(1992/12)

以前、雑誌に連載していた文章です。店のPRではなく、情報公開の一環です
 依頼者によると,パソコン関連誌のライターたちが集って会食をするので,いっしょに参加して状況をレポートしてくれないかという.参加する連中は,パソコン関係の製品レポートを書くのがメインの仕事だという.よくも,こういう些細なネタをさがしだしてくるものだ.まあ,会食であるから悪い気はしない.場所も自宅から近いのでさっそくOKした.
 僕達は車をとばして1時間,栃木県安蘇郡の葛生町という所へたどりついた.この町では,あちこちの山を切り崩してセメントを作っているようだ.おかげで道はダンプの行進であり,町並みは妙にほこりっぽい.途中,”葛生原人”という原始人のワイルドなイラスト入り看板に,一同ギョっとする.日本人にとって,由緒ある地らしい.
 会合は,金屋そば(仮名)でおこなわれた.店構えから察するに,老舗のようだ.会話の口火を切ったのは,一番の年輩と見える亀井氏である.
「今日は,遠いところを来ていただきありがとうございます.腹もすいているでしょうから,注文は各人で決めてください.腹が減ってはいくさができぬです.ハハハ.」
 と,いう,ごく普通の話.これを受けて,僕の右隣の坂本氏.
「そばは日本人にとっては既に定評あるメニューである.そのそばを食うためにここへやってきた.どの程度の出来映えか期待されるところだ.気になるメニューだが,他店のものと基本的には同じだが,より,完成度を増し,充実感のあるすぐれたメニューに仕上がっている.及第点と言えるだろう.メニューの日本語化についても不満はない.」
 妙に堅い.つづけて,向かいの鈴木氏.
「てんぷらそばとてんざるそばの区別が瞬時にはつきにくく,店員のサポートに依存しなくてはならない.致命的な欠点とは言えないが,ユーザーは注意が必要だ.次のバージョンでは,この点について改善したメニューを供給してほしい.」
 いいまわしが気になる.その左隣の早川氏.
「このメニューはGUIを採用していないが,簡易な操作で,メニューを選ぶことができる.これならば,操作にとまどうということもないだろう.普段ひいきにしているそば店のメニューに比べて選択速度の20%の改善が見られた.選択速度についても,ユーザーをまたせるということはないだろう.」
 そこに現れた太田氏.
「この店の駐車場は3台までとめることができる.十分とはいえないが,通常の使い方をする限り,これで不足するということはないだろう.ただ,ドアをあけたとき,真下に半径65センチほどの水たまりがあるのが気になった.上級者はともかく,初心者は足を濡らしてしまうだろう.是非,改善してほしい.この点が改善されれば,まずまずおすすめの駐車場と言えるだろう.」
 ”駐車場は3台ぶん”だけで済む内容じゃないか.この辺まで来ると,連中特有の変な言い回しに気づく.だいいち,ごちゃごちゃ言っていながら,肝心のメニュー選びがまったく進んでいない.しょうもない連中だ.
 つづいて早川氏.
「店の規模に関しては,多人数での使用を前提とする場合,容量の点で他店に軍配があがる場合があるだろう.パーソナルユースであればともかく,ビジネスユースでの使用には疑問が残るだろう.しかし,容量よりも,味を優先する場合,この店はよい選択と言えるのではないだろうか.」
 今までだまっていた川崎氏.
「常に,ダンプが外の道を通行しているため騒音が気になる.しかし,通常のビジネスシーンにおいては,許容できるレベルの騒音であるし,そばの味さえよければなんでもよい,という使用目的であれば,まったく気にはならないだろうということが言えるだろう.」
 次は,加藤氏.
「そば屋の有効利用のためには,十分な空き時間が必要だ.現在の外食事情から判断して,空き時間がなければ,そばを楽しめるとは言えないだろう.しかし,そばを食うためという目的のみに限定すれば,必ずしも空き時間は必要だということではないわけではない.昼休みを使うという高度な利用方法もあるにはある.結局,空き時間の必要性については,ユーザーが個人で判断してほしい.」
 何がいいたいのかさっぱりわからない.誰でも知っている昼休みのことをことさら高度な技と見ているのも妙だ.
 ぼそりと,太田氏.
「空き時間の調整は,初心者には荷が重すぎる.」
 ついで,川崎氏.
「ライバル店にくらべると,そばうち職人が一人しかいないために,処理速度の上で不安が残る.注文しても,なかなかそばが来ないために,ユーザーをいらいらさせることがあるだろう.特に,夏の暑い日には十分な注意が必要だ.この場合,もう一人職人を雇えば処理速度が理論上は2倍になる.しかし,実際は,注文聞きのおねえさんが一人なので2倍まで向上しない.ベンチマークテストによると(図1),1.5倍の速度向上がみられた.おねえさんにキャッシュをつかませれば,さらに速度があがり,1.7倍まで向上した.このことから,速度を最大限まで改善するにはキャッシュをつかませることが必要だ.いずれにせよ ,職人をもう一人増やすのにかかるコストと処理速度改善効果を十分検討してから導入に踏み切るべきだろう.」
 だぁれも,ベンチマークなどやっていない.”カッコズイチカッコトジ”などというのも聞いていて妙で,空腹とあいまって,いよいよ気分が悪くなってくる.
 鈴木氏.
「そばは食べればよいので簡単だ.ざぶとんには座るだけでよい.操作は簡単だ.」
 言われなくても知ってます.
 続きは,太田氏.
「入口の引戸が,自動ドアでないのは,初心者には不親切だろう.」
 太田氏はなんのかのと”初心者,初心者”をふりまわすライターらしい.
 次,早川氏.
「店員の,きめ細かいサービスは評価できる.お冷やの運び方も軽快だ.おしぼりはぬるいが,普通の使い方をする限り,ぬるすぎるということはないだろう.別の,おしぼりを持ってきてもらうことも可能だ.」
 早川氏は,使い方うんぬんが得意のいいまわしらしい.
 うるさ型,川崎氏.
「客用の雑誌が,分野的に偏っているのが気になると言えなくもないということはないので注意が必要だ.」
 またもや,初心者づくしの太田氏.
「入店後,おねえさんがすぐに来るので,注文をすぐ言うことができる.細かい事だが,初心者にはみのがせない利点だ.また,灰皿の,テーブルへの設定は,初心者でもとまどうということがないだろう.」
...
 このように,わざと時間つぶしをしているのではないかと思うほどの,しょーもない会話がだらだらと続いた後,そばにありつけたのは3時間後だった.しかも,結局,全員がざるそばだったのには閉口した.
 そば会の後,連中はカラオケボックスへとくり出した.そば会では遅々として進まなかった会話も,ここでならスムーズに進むのではと思い,僕もつきあうことにした.
 いきなり,初心者御用達の太田氏.
「このレーザーディスクのリモコンは携帯性の面では評価できるが,テンキーの配置が98のものと一致していない.これでは初心者はとまどうことになる.改善を望みたい.」 あたりまえの鈴木氏.
「ドアは開けるだけで開くので操作は簡単だ.クツはぬげばよいので操作性に問題はない.ソファーには座ることになるだろう.総合的に,使いやすいカラオケボックスだ.」
 何がいいたいのか不明の加藤氏.
「オプションとして,かき氷を注文できるが,冬はどうするのかという疑問が残る.ユーザーは注意が必要だ.だからといって,かき氷がまずいというわけでもない.また,入室時間のチェックが甘いのも不安だと言えば不安だが,不安ではないというユーザーもいるだろう.」
 何かとうるさい川崎氏.
「時間制なので,1曲を歌うだけならば割高だが,何曲も歌うにはコスト的な面で有利だ.ただし,歌い終わったら,次の選曲をスピーディーにしないと,無駄な時間が過ぎてしまい,コスト上のメリットが大幅に減少する.十分な注意が必要だ.」
 早川氏.
「ビジネスユースには,部屋の容量,レーザーディスクの処理能力から言って,大いに不満が残るところだ.やはり,パーソナルユースに使用目的を限定すべきだろう.ユーザーの一考をうながしたい.」
--以下,大幅に後略.--
 この記事がフィクションかノンフィクションであるかは僕だけの秘密だが,なぜか依頼者は真実を知っていた.なお,登場人物,団体名,文体等は実在のものとなんら関係がないことをお断りしておく.